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仙台地方裁判所 昭和23年(行)17号 判決

原告

加藤栄之丞

被告

宮城県農地委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

志田郡志田村農地委員会が、別紙目録記載の農地について、その樹立した買收計画からこれを削除することにした決定に対し、被告が昭和二十三年三月十二日これを承認しないことにした決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、原告はその所有にかかる前記農地を含めて合計一町八畝歩の農地を訴外伊藤褜雄及び同加藤榮治郞の両名に小作させていたが、食糧事情が急迫し、自ら耕作する必要を痛感したので、昭和十九年春両名の了解を得て前記農地を返して貰つた。しかし当時原告は居村農業会副会長、部落会長に就任していた外多くの公共的職務を帶びていて耕作する余暇がなかつたので、昭和十九年から同二十一年迄の三年間だけ二十数年來格別の親交を結んで來た同村の訴外佐藤英男を雇入れて耕作の手傳をさせたが、(供出等は滯りなく原告名義で済ませた。)同二十二年春からは農業会副会長を辞し、部落会長の仕事も一段落ついたので、佐藤英男を解雇して原告一家の手で耕作し始めた。然るに志田村農地委員会は佐藤英男の申請に基き前記農地を自作農創設特別措置法第三條第五項第二号に該当する同人の請負耕作地と認定してこれについて遡及買收計画を樹立した。しかし右買收計画の樹立には次に揚げるような違法がある。

(一)  所謂請負耕作地であるかどうかは買收計画を定める時期の事実に基いて決定すべきに拘らず同二十年十一月二十三日現在の事実に基いて決定したこと。

(二)  仮に同二十年十一月二十三日現在の事実に基いて決定することができるとしても、

(1)右農地は前記の如く純然たる自作地であるからこれを佐藤英男の請負耕作地と認定すべきでないのに、後者のような認定を下したこと。

(2)仮にこれを佐藤英男の請負耕作地と見ても、前記の如く原告は公職に就いていた関係上自ら耕作することができなかつた為一時右農地を佐藤英男に耕作させたに過ぎぬのであるから自作農創設特別措置法第五條第六号同法施行令第七條第三号の規定によりこれを買收から除外すべきに拘らず、かような措置を採らなかつたこと。

(3)前來の事実に照し佐藤英男の遡及買收の請求は信義に反すると認むべきであるから右農地を買收から除外すべきに拘らずこの点について何等の考慮も拂わなかつたこと。

(4)原告家は先祖代々農業を営み、主としてこれによつて生計を維持して來たのであつて、もし右農地が買收されると、その耕地は田約三反歩、畑約五畝歩となり(いずれも自作地)、その生活状態は二町余を耕作することとなる佐藤英男の生活状態に較べて著しくわるくなるので、自作農創設特別措置法第六條の二第二項第四号の規定の適用を受け、右農地を買收から除外すべきに拘らず買收することに決定したこと。

そこで原告は同委員会に対し異議の申立を為し右買收計画の違法不当なることを訴えたので、同委員会は同二十三年三月四日再審査の末前記農地を買收計画から除外する旨の決定を為し、被告に対しその承認を求めたところ、意外にも被告は同年三月十二日右決定を不可とし、これを承認しない旨の決定を為し、翌四月八日附を以てその旨志田村農地委員会に対し通達し、同委員会は翌九日原告に対し傳達した。しかし被告の為した右決定の違法なことは言う迄もないところであるから、その取消を求める為本訴請求に及んだ旨陳述した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、別紙目録記載の不動産は原告の所有であること。原告は、かつて、これを訴外伊藤褜雄及び同加藤榮治郞の両名に小作させていたこと、訴外志田村農地委員会が右農地につき、訴外佐藤英男の申請に基いて原告主張のような理由で遡及買收計画を樹立したので、原告は同委員会に対し異議の申立をしたところ同委員会は昭和二十三年三月四日再審査の末これを買收計画から除外する旨の決定をして被告に対しその承認を求めたところ被告は右決定を不可とし、承認しない旨の決定をしたこと及び原告が右農地を昭和二十二年以降自作しておることは、いずれも認める。原告が右伊藤及び加藤からその了解を得て右農地を返して貰つたことは知らない。原告がその主張のような公職に就いていたので、昭和十九年から同二十一年迄の三年間訴外佐藤英男を雇入れて手傳せたことは爭う。原告は右伊藤及び加藤から右農地を取上げて右期間中右佐藤に請負耕作させたのであつて、かように耕作人を代えたのは佐藤に耕作された方が確実に飯米を獲取することができたからである。しかし佐藤との契約もゆくゆくは通常の小作契約に改めることに約束して同人から三個年の間右農地からの收獲物の供給を受けたのである。それにも拘らず、昭和二十二年度になつてから地方長官の許可も得ないで右農地を取上げたことは不信、違法の措置と言うべく、これにひきかえ以上のような関係に立つ右佐藤の為した遡及買收の申請は信義に反したものとは言い得ない。なお原告は同二十年十一月二十三日現在において右農地の外に一町五反歩の小作地を保有していたと述べた。

(立証省略)

理由

訴外志田村農地委員会は原告所有にかかる別紙目録記載の農地について、訴外佐藤英男の申請に基いて、これを同人の請負耕作地と認定して遡及買收計画を樹立したこと、原告は前記買收計画について志田村農地委員会に対し異議の申立をしたところ、同委員会は右農地を買收計画から除外する旨決定したこと、志田村農地委員会はその為した右決定について被告の承認を求めたところ被告はこれを不可とし承認しない旨決定したことは当事者間に爭がない。

およそ市町村農地委員会が農地の所有者からの異議の申立を容れ、その樹立した買收計画を取消す旨の決定を為した場合、県農地委員会の承認を得なければその効力を生じないと言うような法的根拠はないので、たとえ被告が志田村農地委員会の為した前記決定を承認しない旨の決定を為したところで、それが法律的効果を生すべき由もない。言わば被告の為した前記決定は、その上級監督機関たる地位に基き下級の行政庁に対して為した見解の表明にも等しい価値しか持たないものと解すべきであるから、抗告訴訟の対象となるべき政行処分に属さないものと見るべきである。果して然らば原告の本訴請求はその他の点について判断する迄もなく失当であつてこれを棄却すべきであるから訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(目録省略)

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